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最初の違和感はどこへらや…… 時代はBMWデザインの思う壺です かつて私たちが憧れたBMWはとても上品で端正なカッコをしていました。60年代〜80年代は、ボディの形は水平基調で四角く、しかし角はきれいに丸められて、いかにもドイツの「いいモノ」らしく、ドッシリと落ち着いた風情をかもし出していました。
それが90年代を迎えるあたりから、前下がりのウエッジシェイプ気味になり、いかにも走り出しそうなダイナミックな感じに変わった。なんですが、そういうボディに施されたデザイン処理は、あくまで品よく抑制の効いたままでした。だれが見てもスマートでクールでカッコよく思えるデザインだったわけです。
ところが、アメリカ人デナイナーである、クリス、バングルによってそれが激変しました。特に驚いたのは7シリーズです。 低くスマートで、このクラスとしては押しが弱く思えるほどに端正だった先代と正反対で、ボディがなにやらズン胴でモッコリに。それだけじゃなくディテールも凄かった。 ライトは独特だし、ウインカーがその上にあって眉毛みたいだし、トランクのところはハコが乗っかってるように見える。いやもう違和感の集合体みたいなデザインでした。 そして続いて登場した5シリーズでは、さらにその違和感が増強。ドアは妙なところに妙な凸凹がつけられてるし、ライトはさらに独特だし、一体どうなってしまったんだろう……。みなそう思ったはずです。
しかしそれはデザイン部を率いるクリス・バングルの作戦でした。
じつは90年代後半、BMWに標的を定めたアウディは、上品端正なデザインで押してきていました。しかも常識ではあり得ないほどお金を掛けて、パネルとか内装材の質感を上げてチリをつめ、自動車とは思えないほどの凛々しい端正さを獲得していたのです。これに対して今までどおり端正で勝負したのでは、消耗戦になってしまうと考えたのでしょう。
しかしバングルは逆の手を打ってきました。わざと違和感を感じるアクの強いデザインという作戦です。アクの強いものは、最初は引きますが、慣れてしまえば今度は普通のものが物足りなく思える。たとえばくさやの干物やブルーチーズがそうですね。 そして、それらと同じように我々はバングル・デザインに今や慣れてしまっています。新しいSクラスのカッコが、なーんか古臭く物足りなく思えるのは新世代のBMWを見慣れてしまったからに他ならないのです。
アウディがドロボー髭グリルに今の世代で慌てて変えてきました。バングル作戦の勝利といえそうじゃありませんか。 こうしたデザインが、決して偶然ではなく、予め練りに練った確信犯的なものだったことを証明するクルマがあります。現行3シリーズです。現行3は、あちこちにバングル流のデザイン手法が散りばめられていますが、なのに全体は意外にオーソドックスにまとまっている。
5や7と違ってちゃんと「3シリーズに見える」カッコをしているのです。3シリーズは、BMWの販売の半数以上を占めるドル箱で、しかも顧客はコンサバ志向の人たち。 そういう商品だから、「今のBMWのカッコ」と「記憶にある3シリーズらしいカッコ」の中間点に収めたに違いありません。いやもう、ことデザインに関しては、時代は完全にBMWの思う壺にはまってるのです。
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